◆2013年度

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度2月研究例会(第126回オペラ研究会) 終了

 

・日時:2014年2月1日(土)16:25~18:30 

・会場:早稲田大学早稲田キャンパス9号館5階 大会議室

 

・内容

<第1部>研究発表 16:25~17:55

・発表者:石川 亮子

・題目:オペラにおける舞曲

    ―アルバン・ベルクの《ヴォツェック》と《ルル》からの考察―

 

[発表内容]

 なぜ多くのオペラには舞踊の場面があるのか。オペラにおいて舞曲は、どのような機能を果たし得るのか。本発表はアルバン・ベルクの2つのオペラを、舞曲という角度から捉え直そうとするものである。

 オペラ史に目を向けると、モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》におけるメヌエットとコントルダンスとドイツ舞曲、またシュトラウスの《ばらの騎士》における「オックス男爵のワルツ」の事例から、舞曲は社会的階層、さらには国や地域、時代と結び付いたものであり、そのことによってオペラに台詞からは語り得ない、新たな意味がもたらされていることが確認される。

 《ヴォツェック》の24場ではレントラーとワルツが、「酒場の楽団」と名付けられた民俗的なアンサンブルによって、しかしながら交響曲のスケルツォ楽章として高度に組織化されてあらわれる。その構造にはシューベルトやマーラー、またはベルク自身が述べたように、シューマンが意識されている。

 一方《ルル》には、1920年代のヨーロッパで流行したジャズが取り入れられている。ここで注意しなければならないのは、当時ジャズとは、主にアメリカから輸入された「新しい社交ダンスの音楽」を指す用語であり、ベルクはバレーゼルの著作やシュルホフのピアノ曲などを通してジャズを学習した。その成果のひとつが《ルル》であって、13場ではラグタイムとイングリッシュ・ワルツ(ウィーン風とは異なるスロー・ワルツのこと)が、「ジャズバンド」によって、メロドラマの音楽として演奏される。

 《ヴォツェック》は無調、《ルル》は12音技法による芸術音楽であるなかで、これらの舞曲は伝統的な民俗音楽や流行のポピュラー音楽との接点となり、ベルクのオペラのある種の「わかりやすさ」、あるいはアクチュアリティーを保証するものとなっている。

 

[質疑応答](一部紹介)

 ヴァーグナーやドヴォルザーク、シュトラウスなど、様々なオペラにおける舞踊の場面が検証された。また《ルル》におけるジャズの使用は、ヒンデミットやクルシェネクと比較しても遅れたものであり、同時代性よりもむしろそのずれのなかに意義があるのではないかとの指摘があり、活発な議論が展開された。

 

<第2部>オペラ/音楽劇のキーワーズ 第3回 18:00~18:30

・「日本の作曲家によるオペラ作品史」(報告者:佐藤 英)

 

[参加者]28名

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度1月研究例会(第125回オペラ研究会) 終了

 

・日時:2014年1月11日(土)16:30~18:00

・会場:早稲田大学早稲田キャンパス9号館5階 大会議室

・発表者:荻野静男

・題目:リチャード・ウィルの『ズーミング・イン、ゲイジング・バック:

            テレビで見る《ドン・ジョヴァンニ》』について

 

[発表内容]

 《ドン・ジョヴァンニ》のテレビ放映はこれまで詳細に検証されてきたわけではない。2011年に発表されたリチャード・ウィルの論文『ズーミング・イン、ゲイジング・バック: テレビで視る《ドン・ジョヴァンニ》』は従来の研究と比べ、より広範囲にこの対象を調べ、固定観念に囚われずにその検証を行っている。

 ウィルの考察対象はNetherlands Operaで上演された《ドン・ジョヴァンニ》(2006)である。その舞台演出は原作を1960年代に移し替えると同時に、テレビ放映を最初から意識している。本論は舞台監督Wieler/Morabitoやテレビ監督Vermeirenの意向を、その演出から読み取ろうと試みる。

 従来テレビ放送のオペラは舞台上演の可能な限り忠実な再現にすぎないと考えられてきた。しかしウィルはそのような見解を否定し、むしろテレビ放送のオペラにはそれ独特の長所があり、時間・主観性・パーフォーマンス・視覚性といった領域でテレビ監督独自の手腕が発揮されているとする。例えば、クローズアップやズーム・イン等のカメラワークは、登場人物の内面性をより深く掘り下げることができる。また視聴者はカメラという光学機器を通して歌劇場の舞台に接しているので、音楽ジャンルのオペラはよりヴィジュアルなものへと変容する。そこにオペラのアイデンティティへの問いや、視聴者の側からのオペラへの新しい接し方がある。

 

質疑応答](一部紹介)

 本研究がアメリカにおける映像論の反映ではないかとする説が出された。また時間の問題との関連で、本テレビ放送が《ドン・ジョヴァンニ》の原作のいくつかの部分を省略していることや、巧妙なカメラワークによる時間の流れのスピード調節が行われていること等が指摘され、活発な議論が展開された。

 

[参加者]17名

 

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度12月研究例会(第124回オペラ研究会)終了

 

・日時:2013年12月14日(土)17:45~19:00

・会場:早稲田大学早稲田キャンパス9号館5階 大会議室

・内容:「オペラ/音楽劇のキーワーズ シリーズ第2回」(会員向け)

・報告者:丸本隆、中村仁

 

[参加者]18名

 

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度11月研究例会(第123回オペラ研究会)終了

 

・日時:2013年11月16日(土)一般向け第2部は16:30~

・会場:早稲田大学早稲田キャンパス1号館2階 現代政治経済研究所会議室

    

<第1部>15:15~16:15

「オペラ/音楽劇のキーワーズ シリーズ第1回」(会員向け)

  

<第2部>16:30~18:45

「現代オペラ演出をめぐる諸問題―『オペラハウスから世界を見る』を出発点として―」

☆司会:新田孝行

☆ゲスト:森岡実穂(『オペラハウスから世界を見る』著者)

 

--------------------------------------------

[第2部 内容]

 11月例会は、今年3月に『オペラハウスから世界を見る』(中央大学出版部)を上梓された森岡実穂氏を招き、オペラの現代的演出について討議を行った。まず、司会の新田孝行氏が同書の内容を要約し、同じオペラの様々な演出を今日の社会問題へのメッセージ性に注目しつつ比較したその画期的な方法論について紹介した。『蝶々夫人』のケートのような脇役の造形やほんのちょっとした細部でさえ演出上重要な意味をもつことが確認された。次に、オペラ演出研究を行う上での実際的な問題について森岡氏から話をうかがった。特に、舞台写真を入手し、論文での使用許可を得る交渉の苦労が印象的だった。出席者からは、演劇の場合と異なるオペラならではの音楽と演出・演技の関係という問題をもっと論じるべきという提言も為された。森岡氏は、確かに自らの解釈や方法には自身のアイデンティティや能力の限界が反映されているが、そのことは決して否定されるべきではなく、研究者たちが協力し、それぞれの立場や得意を生かしつつ議論を重ねることが、現代オペラ演出研究というまだ確立されていない分野にとっては重要だと述べた。演出家が主導権を握ると言われる昨今のオペラ界だが、森岡氏は、演劇的側面に対して鈍感すぎる歌手たちもいまだに少なくないと指摘した。終了後の懇親会にまで及んだ活発な議論は、現代的な演出がオペラ研究における喫緊の課題であることを十分裏づけるものだった。

 

[参考書籍]

森岡実穂著『オペラハウスから世界を見る』(中央大学出版部、2013年)

 

[参加者]17名

 

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度10月研究例会(第122回オペラ研究会)終了  

 

<内容>

聖徳大学音楽学部オペラ公演 モーツァルト《フィガロの結婚》の鑑賞

 

聖徳大学博物館でのヴァーグナー《タンホイザー》自筆譜、ヴァーグナーおよびヴェルディの自筆書簡等展覧会の見学

 

オペラ《フィガロの結婚》

・日時:2013年10月26日(土)13時00分開演

・会場:聖徳大学川並香順記念講堂

 

[参加者]11名 

 

公演写真はこちら(聖徳大学SOA音楽研究センター提供 Facebookページより)

 

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度7月研究例会(第121回オペラ研究会) 終了

 

・日時:2013年7月13日(土)17時30分より

・会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館219会議室

・内容:オペラ/音楽劇の研究動向 ~日本演劇学会全国大会を終えて~

    オペラ/音楽劇研究所のメンバーで日本演劇学会全国大会に登壇された方々に

    お話いただきました。

<参考>日本演劇学会2013年度全国大会

    2013年6月21~23日開催

    テーマ:「宝塚歌劇と世界の音楽劇」

 

[参加者]17名

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度6月特別例会120回オペラ研究会)終了

 

日時:2013615日(土)14時~
・会場:早稲田大学早稲田キャンパス9号館6階第2小会議室    
・内容:日本演劇学会2013年度大会に向けての意見交換会
・発表者:日本演劇学会2013年度大会での発表予定者


▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度6月研究例会(第119回オペラ研究会)終了

・日時:201368日(土)1640分頃〜

・会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館404会議室

・発表者:丸本 隆

・題目:ヴェルディ・オペラとは何か?

     ― 受容・評価・解釈をめぐる諸相と変転のダイナミズム

[発表内容]

 オペラ研究は20世紀中盤まで未熟な状態にあった。1960年前後、まず楽譜など一次資料の校訂が本格的に開始され、さらに80年代、旧来の学問体系の枠組みを超えた種々の方法論が台頭する中で、英米独伊を中心にオペラ研究が全面的に開花し、以来目覚ましい発展を遂げながら今日にいたっている。

 一方日本では、そうした国際的潮流に乗った学術研究が今なお本格化せず、それが一般読者のオペラ理解にも影響している。オペラの代表格のヴェルディの場合ですら、それは例外でない。

 たとえば《ナブッコ》初演の事情に関して、従来の言説が後代の「創作」だとする主張が実証的に展開されるのは90年代だが、日本ではほとんどの一般書に、今なお伝統的な「神話」が無批判に取り入れられている。一部の著作が新解釈を視野に入れているのは評価できるが、逆にヴェルディのリソルジメントとの関わりの軽視など、新説の弱点とも思える一面的傾向をそのまま継承し、その後その妥当性をめぐって多くの研究者が展開してきた論争や、提示された多様な解釈の可能性をフォローしていない点に問題が残る。

 日本のヴェルディ論がこうした状況に甘んじている原因は、何よりもその基盤を支えるべき学術研究の遅れにあり、その点における一大転換が望まれる。

 

[質疑応答]

具体例として詳述した《ナブッコ》を中心に、ヴェルディの政治的コミットメントの問題を解く上で重要な鍵を握る暗喩的表現、検閲、台本のあり方、さらに研究の土台となる当時の新聞の利用の可能性等に関して質疑応答が交わされた。書簡が遺族の意向で公表されないなど、とりわけ研究進展の障害となっている一次資料の問題をめぐり、議論が盛り上りをみせた。

 

[参加者]

23名

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度特別講演会 終了

 

・日時:201361日(土)1800

    ・会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館B105教室

・講演者:田口道子(声楽家・オペラ演出家)

・演題:『ファルスタッフ』~楽しい鑑賞の手引き~

 

[参加者]20名

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度5月研究例会(第118回オペラ研究会) 終了

 

・日時:2013518日(土)1640分頃〜

・会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館219会議室

・発表者:若宮 由美

・題目:19世紀ウィーンにおける大衆音楽と音楽劇の接点:

                 ヨハン・シュトラウス・ファミリーの視点から

 

[発表内容]

 本発表では、まずシュトラウスの家系を紹介した。父ヨハン1世と息子たち(ヨハン2世、ヨーゼフ、エドゥアルト)の作品には、既存のモティーフを引用した作品が100曲以上存在し、その大半が音楽劇(オペラ、オペレッタ等)からの引用である。父の引用曲は、ワルツ、ギャロップ、行進曲など、多ジャンルにわたるが、息子世代の引用曲はカドリーユが中心である。その背景には、舞踏会における「カドリーユ」というダンスの性質がある。

 次に父の作品例として、エロールのオペラ《ザンパ、あるいは大理石の花嫁》からの引用曲(〈ザンパ・ワルツ〉〈ザンパ・ギャロップ〉他)を示し、引用の手法や曲としてのオリジナリティ等を検証した。1832年の「ザンパ・フィーバー」はヴァーグナーが『自叙伝』で証言している。《ザンパ》の事例からも明らかなように、19世紀ウィーンの文化活動の特殊性は、(1)音楽劇、(2)モティーフを引用したダンス音楽、(3)オペラ・パロディが互いに影響を及しあったことにある。

 次に、息子世代の例として、ヨーゼフの〈劇場カドリーユ〉(1867)を取り上げた。1865/66年の劇場クロニクルとして曲が構成されている点が特徴である。そして、時事性はシュトラウス音楽の特徴でもあった。ウィーン四大劇場の総演目(部分的)を示し、劇場界の活動を概観しつつ、〈劇場カドリーユ〉に引用された原曲を紹介した。

 ヨハン2世は1860年代後半からオペレッタへの転身を図る。それにともなって、他の作曲家の引用はしなくなり、ダンス音楽においても、もっぱら自作劇からの引用が行われた。その背景には、著作権があったと考えられる。 

 

[質疑応答]

 作品引用によって訴えられたことはあるか、著作権、劇とシュトラウス作品(ダンス音楽)の相互の宣伝効果、楽譜校訂やリブレットの問題、親子の関係、軍楽隊の状況などを中心に、議論が行われた。

 

[参加者]

20名

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所

▼オペラ/音楽劇研究所 2013年度4月研究例会(第117回オペラ研究会) 終了

 

・日時:2013年4月20日(土)16時半~(研究発表)

・会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館219会議室

・発表者:佐藤英氏
・題目:日本のラジオ放送の黎明期におけるオペラ関連番組

 

[発表内容] 

 今回の発表では、日本のオペラ受容史において放送が果たした役割を検討する試みの一環として、日本のラジオ放送の黎明期におけるオペラ関連番組を取り上げた。

 最初に、1925(大正14)年から翌年に東京で放送されたオペラ関連番組から、代表的な番組を検証した。ラジオ放送とオペラの関係は、試験放送当日に始まり、カーピ歌劇団が放送に出演している。しかし、放送開始初期の番組表を詳細に検討すると、オペラの序曲や名旋律を器楽で演奏するオムニバス形式のプログラムがメインで、声楽家によるオペラ関連番組は必ずしも多くなかったことが分かる。藤原義江のような話題の歌手が出演する番組は、声楽付きのオペラ作品に触れることができるという点で、当時のリスナーにとって、貴重な機会だった。

 19257月に本放送が開始した後には、オムニバス形式の番組と共に、オペラの一作品に焦点を当てたプログラムも組まれるようになる。「カルメンの夕」をはじめとする、この種の番組の成功に後押しされたためもあろう――19265月には、全曲の約半分にとどまったとはいえ、ヴェルディの《アイーダ》の放送が実現している。その後、《椿姫》を取り上げた「教養講座」(8)や、ロシア歌劇団による《アイーダ》(10)など、有名曲を中心とする番組が、この年に放送された。

 オペラに関する番組規模の拡大の過程で登場したのが、1927年から開始される「放送歌劇」のシリーズである。発表の最後では、このシリーズの曲目や当時の放送の様子などを、リスナーの感想を紹介しながら概観した。

 

[質疑応答]

ラジオ放送と浅草オペラの関係、当時の録音の有無、リスナーの反応、藤原義江や宝塚少女歌劇の出演番組、聴取者獲得のための努力が放送局側であったか、などを中心に、議論が行われた。

 

[参加者]

19名

(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所
(C)早稲田大学オペラ/音楽劇研究所